Alerts 商標法近代化法案(Trademark Modernization Act)に基づく連邦商標法の変更、施行日、及び、実施規則 – Changes to Federal Trademark Law and Their Effective Dates Under the Trademark Modernization Act and its Implementing Regulations

2022年01月11日

Written by Theodore H. Davis Jr. and Rita Weeks (和訳:穐場 仁)

I. イントロダクション

2020年12月27日、2020年の商標法近代化法案(Trademark Modernization Act、以下「TMA」)は、議会を通過・成立し、2021年末の連結歳出予算法(Consolidated Appropriations Act)の一部として大統領により署名された。1 2021年11月17日に米国特許商標庁(USPTO)2によってTMAの実施規則が発行され、2021年12月にはTMAの最も重要な側面の全てではないが、多くが施行となった。このアラートは、TMA自体と新たな実施規則の両方に対処し、以下の重要箇所を含む:

  • 改正されたランハム法(Lanham Act)は、現在、査定系取消(ex parte expungement)及び査定系再審査(ex parte reexamination)手続において、商業上使用されたことのない、又は、出願手続においてその日までに商業上使用されると宣誓した日時点で商業上使用されていない商標の登録に異議を申し立てることを許可している;
  • 同様に、商標審判部(Trademark Trial and Appeal Board)に対して、商業上使用されていない商標の登録を取り消すよう申請することは、当該申請が登録から5年を過ぎた後に提出された場合であっても可能である;
  • 2022年12月1日現在、USPTOから発行された一部の庁指令(office action)は、応答期限が3か月へと短縮される。(しかし延長可能)
  • 係属中の出願に対する情報提供(letter of protest)も初めて体制化された;
  • 原告がランハム法(Lanham Act)侵害により回復不能な損害(irreparable harm)を被るとの推定が成文化され、全国的に効力を有することとなる、さらに
  • 行政法判事(administrative law judges)の選任の合憲性が、TMA及びそれを解釈する判例法により確認されていることが示された。

TMAによってもたらされたこれら及びその他の変更は、1988年の商標法改正法(Trademark Law Revision Act)3以来おそらく最も重要な結果であるため、商標専門家と商標所有者が同様にこれらの変更を習熟しておくべきであろう。

II. TMA及びUSPTOの実施規則

A. 登録商標に対する査定系(ex parte)手続: 2021年12月27日施行

TMAの実体的な規定の多くは、2019年7月18日の「clutter」又は「deadwood」の問題についての裁判所、知的財産及びインターネットに関する米下院小委員会の公聴会に端を発している。商標専門家は、米国では、外国出願に基づかない商標出願につき、出願された商標が出願に列挙されているすべての商品又はサービスについて商業上使用されることを宣誓することを要求しており4、出願の対象となっている各国際分類が少なくとも1つの商品又はサービスに結び付き、商標の使用を示す例として裏付けられなければならないことを理解している。対照的に、ランハム法(Lanham Act) 第44条(e)及び第66条(a)に基づいて5、アメリカ合衆国以外の出願に基づく出願は、商業上の使用の宣誓ではなく、その商標を対象とする外国登録又は国際登録をその出願の基礎として主張することができる。商標登録が商業上の使用に基づくものであるか外国登録であるかにかかわらず、その所有者は、ランハム法(Lanham Act)第8条又は第71条に基づいて、商業上の継続使用(又は不使用の免除)を定期的に宣誓して商標を維持しなければならない。6

商業上実際には使用されていない商標を対象とする商標登録に関する議会の懸念のため7、TMAはUSPTOの不使用登録商標を対象とする2つの新しいメカニズムを制定しており、いずれも2021年12月27日に施行された。第1に、査定系取消(ex parte expungement)8は、商業上使用されたことのない商標を対象とする登録商標の取消を認める制度である。主として法第44条(e)又は法第66条(a)に基づいて発行される商標登録を対象とする。一般に登録から3年目から10年目までの間にのみ利用可能である9が、2023年12月27日までの期限内は、申立人は商標登録3年目以降いつでも登録に対して取消請求を提起することができる。10

第2に、査定系再審査(ex parte reexamination)11は、ランハム法(Lanham Act) 第1条(a)に基づいて発行された使用に基づく商標登録、すなわち商標の所有者が、審査において現実の使用を宣誓して登録された商標登録に対する再審査を認める。このような宣誓は、出願自体に、または使用陳述書の一部として提出されることがある。このメカニズムにより、USPTOは、登録者の使用宣誓の正確性を、宣誓の出願日の時点をTMAの定める「基準日(relevant date)」として再審査することができる。12 なお、この再審査制度は、対象とする登録が5年を過ぎると申し立てができなくなる。13

2つのメカニズムは、必ずしも排他的ではなく、したがって、単一の登録を取消する際に両方を行使することが可能である。同様に、長官は、同一の商標で同一の問題を提示する場合は取消と再審査を統合することができる。14 最近のUSPTO審査ガイドは、次の2つの関連について次のように説明している。「削除手続の提起を求める申請は、商標法第1条、第44条又は第66条に基づいて登録された商標に関して提出することができるが、再審査手続の提起を求める申立ては、第1条に基づいて登録された商標に関してのみ提出することができる。」15 効率性及び一貫性の観点から、USPTO長官は同一の登録商標について並行手続を併合することができる。16

1. 2つの新しい査定系(Ex Parte)メカニズムの手続の側面

2つの手続きのいずれかを開始するための請求人適格は特段要求されていない。代わりに、第三者は、登録されている商品やサービスの少なくともいくつかにおいて、商取引内で商標が商業上使用されていない「一応の事件(prima facie case)」を示す証拠又は証言をUSPTO長官に提出することにより手続きを開始することができる。いずれかの手続きを開始するための申請には、申請人による「不使用の合理的調査」17を記載した宣誓を添付しなければならず、また、申請が対象とする商品又はサービスの区分毎に400ドルの手数料の支払いが必要である。18 これに代えて、USPTO長官は、自発的に、私的当事者による不成功の申請の対象として提出された証拠を含めた20、不使用の一応の事件(prima facie case)が存在することを決定することができる。19

a. 成功する申請の要件

1) 不使用の一応の事件(Prima Facie Case)の確立

実施規則の技術的な部分ではないが、USPTOの最終規則制定に関する通知は、不使用の一応の事件(prima facie case)を構成するものに関する以下のガイダンスを規定しており、これは申請人が証拠及び証言の優越性によって不使用を証明する必要がないことを示唆している:

一応の事件(prima facie case)は、不使用に関する合理的な根拠が証明されることのみが必要である。従って、これらの手続きに関して、一応の事件(prima facie case)は、登録人が適当な証拠をもってクレームに応答し、潜在的に反論することができるようにクレームされた不使用についての十分な通知を含み、USPTOは、登録の全部又は一部を適宜取り消すべきか否かについて決定を下す前に検討しなければならない。21

実施規則自体は、申立人が、その基準に基づいて不使用の一応の事件(prima facie case)をどのように確立することができるかについて述べられている。それらは、不使用の一応の事件(prima facie case)を裏付ける証拠が含まれるが、これに限定されないことを示している:

  • 検証済みステートメント;
  • 出願又は登録におけるUSPTOの電子記録の抜粋;
  • URL(the uniform resource locator)やアクセスまたは印刷日など、関連するWebページのスクリーンショット;
  • プレスリリース、ニュース記事、ジャーナル、雑誌、その他の出版物からの抜粋で、出版物の名称と出版日を特定するもの。
  • 関連する使用申立てに付随された検証が不適切に署名されたことを示唆する証拠。22

この証拠は明確かつ判読可能でなければならず、項目別インデックスを伴わなければならない。23

重要なことは、USPTOの最終規則制定の通知(ただし規則自体ではない)は、「これらの査定系手続の提起を求める申請を含めたUSPTOに実務を行っている当事者は、裁定機関であるUSPTOに対する誠実さにかかわる全ての倫理規則に拘束される」と規定している。24 したがって、「申請人が、その申請に虚偽又は不正な情報が含まれていることを発見した場合、申請人は提出物を訂正するための長官の監督権限を行使し、訂正すべき事実を明示する申立書を提出することにより…申立ての訂正を求めるべきである。」25

2) 申請人の調査

異議申立人が、異議申立をする前に行った合理的な調査を記述するという要件は、異議申立登録の基礎となる商標の不使用の一応の事件(prima facie case)を立証するという要件とは別個であり、従って、申立書に添付された証拠がそのようなケースを立証するものであっても、申立書が不成立となる可能性がある。USPTOの最終規則制定通知は、「何が合理的な調査であるかは、ケースバイケースの判断である」と述べているが26、そのような調査は、「関連する商品及び/又はサービスについての、又は関連する期間中の商標の使用に関する証拠が通常見つけられたであろう合理的にアクセス可能な情報源からの基礎的な調査に関する情報に答えるために準備される」ものでなければならない。27 これらの情報源には以下が含まれるが、これらに限定されるものではない:

  • 州および連邦の商標記録;
  • 登録者が所有及び管理していると思われる、又は信じているインターネット・ウェブサイトおよびその他のメディア;
  • インターネット・ウェブサイト、その他のオンライン・メディア、及び関連する商品及び/又はサービスが広告または販売のために提供される可能性が高い出版物;
  • 関連する商品及び/又はサービスのレビューまたはディスカッションを含む可能性が高いプリントソース及びウェブページ;
  • 州又は連邦の事業登録機関又は規制当局との間で行われた申請又は措置に関する記録;
  • 登録者とのコンタクト又は関連商品及び/又はサービスの購入の試みなどを含む、商標登録者のマーケット活動;
  • 訴訟又は行政手続の記録であって、権利者による登録商標の使用又は不使用に関係する証拠を含むと合理的に見込まれるもの、
  • 登録商標の不使用を立証する情報を含むその他の合理的に入手可能な情報源。28

「申立人は、その調査が合理的であるかみなすために、全ての可能な適切な情報源をチェックする必要はない」29が、それでも「一般的には、インターネット検索エンジンを用いた単一の検索は、合理的な調査とは考えられない可能性が高い。」30

b.不使用の一応の事件(Prima Facie Case)の主張に対する長官の措置

取消又は再審査の申請がなされた後、それはオンライン登録記録にアップロードされ、USPTOウェブサイト上のTSDRデータベースから見ることができる。31 USPTOは、登録者及び/又は登録者の弁護士の電子メールアドレスが登録されている場合、申請の受領メール通知を送信する。32 登録者は受領通知に応答しなくても良く、USPTO長官が手続開始をしない限り、かつ開始するまで、USPTOは登録者からの応答を一切受け入れない。33

不使用の一応の事件(prima facie case)を証明する申請に対して、USPTO長官は、次の3つの措置の1つをとることができる。第1に、長官が提出物に不備があると判断した場合は、特許商標庁は申請人へ申請書の不備を特定し、対処するための30日の期間を与える書簡を発行する。34 そのような書簡は、申請が不使用の一応の事件(prima facie case)を立証しているか否かの決定を含んでおらず、申請人は、一般に追加の証拠を提出することにより応答することはできないが、問題の欠陥が、申請人の証拠が明確かつ判読可能できない場合には例外が存在する。この場合、申請人は、その証明を再提出する機会を有する。35 申請が完了した後は、申請人はこれを補正することができない。36

第2に、長官は申立人が不使用の一応の事件(prima facie case)を確立していないと決定することができ、その場合、申請は却下される。37 一応の事件(prima facie case)が確立されていないという決定は、見直しの対象ではない。38

最後に、長官は不使用の一応の事件(prima facie case)が確立されたと判断することができる。その場合、USPTO長官は必要に応じて、査定系再審査(ex parte reexamination)又は査定系取消(ex parte expungement)の手続きを開始する「だろう」。39 この場合でも、手続きを開始するか否かという決定は、見直しの対象ではない。40

c.不使用の一応の事件(Prima Facie Case)への対応

基準日(relevant date)において不使用の一応の事件(prima facie case)がどのように確立されているかに拘らず、長官は適切な手続きを開始し、登録人に対し反対の証拠書類を提出するよう要求する。(第44条(e)及び第66条(a)に基づく商標権者は、正当な不使用を立証する選択権を有する。)  登録人は、その登録のための「問題」商品又はサービスを自発的に削除しないと仮定すると、3か月以内に使用証拠を提出しなければならない。ただし、125ドルの手数料で1か月の延長が可能である。41 一方で、長官が権利者の応答が不十分であるとみなす場合は、商標審判部(Trademark Trial and Appeal Board)に上訴する権利を条件として、基準日(relevant date)において商業上の使用が存在しなかった商品又はサービスは登録から抹消される。一方、長官が適切であると認める場合、少なくとも最初の申請により対象となった商品又はサービスに関しては、当該決定は商標登録に対するさらなる査定系(ex parte)の挑戦を排除する効果を有する。42

TMA自身によって解決されない1つの問題は、不使用の一応の事件(prima facie case)の反証を試みる登録者に課せられる負担の性質だ。それにもかかわらず、USPTOの最終規則制定通知は、基準日(relevant date)においての使用を証明するのではなく、登録者がその使用の証拠を提示するだけでよいことを示唆している。たとえば、この通知には次のように記述されている。

….

… 登録人は、異議申立を受けた商品及び/又はサービスに商標の使用についての適格な証拠を提供することにより、不使用の一応の事件(prima facie case)に反論しなければならない。USPTOが、登録者の証拠が不使用の証拠の反証に十分でないと判断した場合、すなわち、証拠の優越性が不使用を示すと判断した場合、登録は適宜全部又は一部が取り消される。申請に基づく手続き又は長官が提起した手続きのいずれかにおける登録人が、関連する商品及び/又はサービスを取り消す決定に対して上訴することを選択する場合は、USPTOが証拠の優越性により不使用を立証するその義務を履行しているか否かの最終的な決定は、アメリカ特許商標商標審判部(TTAB)により、又はその後裁判所により行われることになる。43

TMA自体及び最終規則制定の通知は、登録者に以下の追加的なガイダンスを提供する:

  • 過去の登録記録は、手続きを開始する際に既に検討されており、登録又はその維持のために既に提出された同一の使用見本を再提出するだけ、又は追加の裏付け証拠なしに、確認された陳述書だけでは、不使用の一応の事件(prima facie case)に反論するには不十分である可能性が高い、44
  • 登録人の使用の証拠書類は、第45条に定義される「商標が商業上使用されているとみなされる」場合と一致しなければならないが、見本の様式に限定されなく、45
  • 特定の商品及び/又はサービスの見本が入手不可の場合は、登録人が使用の主張を提出したときであったとしても、登録人は、基準時において商標が商業上どのように使用されたかを証明する証言陳述書により裏付けられた追加の証拠及び説明を提出することができる。46

2. Ex Parte(査定系)のメカニズムとその他手続との関係

登録人に有利な査定系取消(ex parte expungement)及び査定系再審査(ex parte reexamination)手続の終了は、申請人又は他の当事者が、申請において主張している同一の不使用理論を使用して、審判部に登録商標に対する取消訴訟を提起することは妨げない。47 それにもかかわらず、TMA自体もその実施規則も、商標審判部(Trademark Trial and Appeal Board)に対する不成功な取消申請(又は連邦地方裁判所の訴訟における取消申請の不履行)が、後の査定系手続において排除的又は禁反言の効力を有するか否かの問題に対処していない。

ただし、実施規則は、「審判部の注意を惹くような場合はいつでも…係属中のケース、審判部前の手続きに関係する取消または再審査手続は、民事訴訟、他の審判部手続、又は取消もしくは再審査手続が終了するまで停止することができる」と想定している。48 USPTOの主題に関する最終規則制定の通知によれば、「審判部は、仲裁手続、州裁判所ケース、及び外国の訴訟を含む多くの種類の他の手続きに有利な手続きを停止した。」49

従って、「USPTOは、同一条件下で削除及び再審査手続に有利な審判手続を停止することは長年のTTAB実務の継続するものと考えている・・・」50

B. 取消のための新しい不使用根拠:2021年12月27日施行

TMAは、ランハム法(Lanham Act)第14条を改正し、「登録商標が、登録に記載された商品又はサービスの一部又は全部について、又はそれらに関連して商業上使用されたことがない場合は、登録日から3年の期間後はいつでも」取消を認めることとした。51 この新たな取消理由は、査定系取消(ex parte expungement)の「使用されなかった」根拠に対応する。査定系手続とは異なり、TTABにおける新たな取消根拠は、登録が10年経過前に提起された手続きに限定されない。査定系手続と同様に、新たな取消根拠は登録発行後いつでも取消が可能となる。TMAも実施規則も問題を扱っていないが、取消を追求する取消申請人は証拠及び証言の優越によって、おそらく不使用であることを証明しなければならず、単に査定系取消(ex parte expungement)文脈のように不使用の一応の事件(prima facie case)を証明するだけでは確立されない。第44条(e)又は第66条を根拠とする登録権利者は、取消申請に対して、不使用が、当該不使用を許す特別の状況によるものであることを証明することによって、取消の申立てに応答することができる。52 しかし、改正後の第14条及びその立法史のいずれも、不使用の免除が、登録人が立証責任(burden of proof)を有する古典的な肯定的抗弁であるか否か、又は、代わりに登録者による、より軽い立証で十分であるか否かを示すものではない。

C. 庁指令(office action)応答期間の短縮:2022年12月1日施行

規則制定の過程で、より多くのコメントが寄せられたテーマの1つは、庁指令(office action)の応答の基準の6か月間の期限を短縮することをUSPTOのTMAが承認したことであった。この変更の実施規則は、2022年12月1日まで効力を生じないが、USPTOは以下のような取組みを行っている:

  • 法第1条又は第44条に基づき登録出願人は、庁指令(office action)に応答する3か月有し、125ドルの手数料の納付により3か月の延長を条件とする。53
  • 同様の規則が登録後の庁指令(office action)に応答の期限に適用される。54 しかし、
  • 第66条(a)に基づく登録出願人は、引き続き6か月の応答期限を有する。55

適時に認定されるために、応答期限前に延長申請を受信する必要がある。56

D. 情報提供(Letter of Protest)の法制化:2021年12月27日施行

TMAは、既存の実務上認められている情報提供(letter of protest)の手続きを成文化したもので57、商標審査経過において、第三者に出願された商標の登録の可能性に関わる証拠の提出を認めている。現行の手続きは非公式であり、証拠が審査官に到達する期限を設けることもなく、時には出願の最初の許可後に生ずることがあった。しかしながら、TMAは、情報提供(letter of protest)と共に提出された証拠を審査し、その証拠を出願の記録に含めるべきかどうかを決定するために、USPTO長官に2ヶ月を与えることによって、出願プロセスの効率性及び確実性を改善する。58 しかし、TMAも実施規則59も、長官がその期限に間に合わない潜在的な結果を記載していない。各情報提供(letter of protest)に対する現行の50ドルの手数料は、実施規則の下で現状維持となる。

E. 回復不能な損害(Irreparable Harm)の推定を復活/承認:2021年12月27日施行

商標及び不正競争訴訟における差止救済の前提条件は、原告がその救済がなければ回復不能の損害(irreparable harm)を被ることを証明することである。重要なことに、TMA第6条は、原告が差止命令を受ける権利を確立するためにランハム法(Lanham Act)に基づく事件において示さなければならない条件に関して、統一的な規則を創設している。 eBay Inc. v. MercExchange LLC60Winter v. Natural Resources Defense Council, Inc.61 の最高裁判所判決以前、裁判所はランハム法(Lanham Act)に基づき侵害を認められた原告が、同法の継続的な違反により回復不能の損害(irreparable harm)を受けるという推定をほぼ一様に認めていた。

これは、2006年にeBayとWinterが特許法と環境法に基づいて提起された訴訟において、同様の推定を撤廃したことによって変化した。その後、裁判所はこの推定が依然としてランハム法(Lanham Act)中の訴訟に適用されているかどうかを判断するのに苦労し、第3、第9、および第11連邦巡回控訴裁判所は適用しないとした。62 第1と第2連邦巡回控訴裁判所は、問題に明確な結果をもたらすことなく、推定の継続的な実行可能性を疑問視してきた。63 この混乱に加えて、少なくとも第5および第8連邦巡回控訴裁判所、ならびに多数の地方裁判所は、eBayや推定に明確に対処することなく、eBay後の商標事件に回復不能の損害(irreparable harm)を認めている。64 実質的に言えば、この巡回控訴裁判所の分裂は、商標所有者が差止救済を得ることができる可能性は、巡回控訴裁判所が回復不能な損害の推定を維持するか否かに大きく異なることを意味しており、それゆえ、フォーラム・ショッピング(法廷地漁り)を奨励してきた。

TMAは、この不一致を侵害事件において差止命令を求める商標所有者が、立証段階で侵害を証明することにより、又は一時的な保全命令もしくは仮差止命令の申立ての文脈において侵害の蓋然性を示すことにより、回復不能の損害(irreparable harm)の反証可能な推定を受けられることを、ランハム法(Lanham Act) 65の第34条(a)で成文化することにより解決した。これにより、商標事件にeBayを適用し回復不能の損害(irreparable harm)の推定は排除した判決は破棄された。2020年12月27日以降、差止救済の救済を求める裁判所の中には、この変更に明らかに気づいていないようにみられる裁判所も見られるが66 、残りの裁判所は改正後の第34条(a)が改正後の意図する効果を与え始めている。67

しかし、この問題についても、TMAとその立法過程は潜在的に重要な問題を残している。つまり、復活(あるいは確認)された推定は、立証責任(burden of proof)を被告に移すのか、あるいは被告は単に事実に関する争点が存在することを示す(burden of production)だけで良いのか、という問題を残している。68 この問題の対応についての連邦議会の不作為に関しては、Federal Rule of Evidence 301(連邦証拠規則301)が規定のルールを提供しているので、被告は単に事実に関する争点が存在することを示す(burden of production)だけで良いのかもしれない。もしそうであれば、推定は最終的に非常に弱いものであることを示しているのかもしれない。たとえ証拠の優位性の立証基準を満たさない証拠が示されただけであったとしても、回復不能な損害の存在に反すると認識され得る証拠が示されれば、その推定は泡が破裂するように消滅するからである。69

F.米国憲法の任命条項に基づく挑戦からTrademark Trial and Appeal Board(商標審判部) に従事する行政法判事(Administrative Law Judges)を保護:2020年12月27日施行

Arthrex, Inc. v. Smith & Nephew, Inc.70の中で、連邦巡回控訴裁判所は、米国特許審判部(Patent Trial and Appeal Board)の行政法判事(administrative law judge)に対するUSPTO長官の支配力が弱いため、これらの判事は「米国の高級幹部(Officers of the United States)」としての資格を有し、したがって米憲法の任命条項の下で違権任命だったと結論付けた。71 この憲法に基づく瑕疵に対処するために、裁判所は、商務長官が正当な理由なく行政法判示を職務から除外することを禁止する特許法の一部を無効とした。72 最高裁判所は、審理のためのケースを受理した後、連邦巡回控訴裁判所は、特許審判部(PTAB)の裁判官が享受する閲覧不能な権限は、商務長官による下級官庁への任命と矛盾するものであったと認めたが、それにもかかわらず、裁判所は、特許審判部(PTAB)が上院によって承認されたUSPTO長官から裁量的審査を求めるまでは、不満のある特許権者を認めることが適切な救済策であると判断した。73

その際、裁判所は、TMAが行ったランハム法(Lanham Act)第18条、第20条及び第24条の改正に言及し、74 「商標審判部(Trademark Trial and Appeal Board)の決定を再検討し、修正し、又は破棄する」長官の能力を明確にするとともに、当該修正は、「長官が本法の制定日前に商標審判部(Trademark Trial and Appeal Board)の決定を再検討し、修正し、又は破棄する権限を欠いていたことを意味すると解釈することはできない」とした。75 これらの修正は、「長官による再審理は、行政部におけるほぼ普遍的な裁決のモデルに従い、特許審判部(PTAB)をPTOの他の裁決機関である商標審判部(Trademark Trial and Appeal Board)と整合させる」と裁判所が判示した。76

TMAの修正と合わせて考えると、最高裁の判示はTTABの裁判官の任命手続に対するいかなる異議申立も拒否する可能性がある。実際、連邦巡回控訴裁判所はPiano Factory Grp. v. Schiedmayer Celesta GmbH77のちょうどこのような異議申立を拒否した。特に、裁判所は、「2020年の商標法近代化法案(Trademark Modernization Act)は、TTABの判決に相対した長官の権限は議論の余地なく明確になった」とし、78 実に「2020年以前の[TTAB判事の]下級職員としての地位に疑念があったならば、2020年の立法でその疑念を除去した。」79「したがって」、裁判所は、「最高裁判所が米国の下級職員としての(TTAB裁判官)の憲法上の地位について米国の下級官庁であると好意的に言及していることを考慮すると、本件を決定したTTAB委員会の正当性に対する「控訴人の」任命条項の異議申立を却下する」と結論付けた。80

結論

おそらくはるかに大規模な各種の議案の一部として制定されたことにふさわしいように、TMAは相互に関係しないさまざまな商標問題に取り組んでいる。しかし、全体として見ると、USPTO。そしてそれは、新規の登録後再審査及び取消手続が、既存の異議申立及び取消指令よりも、単に使用の虚偽(及び必ずしも詐欺的ではない)宣誓に基づく商標クレームに挑戦するための、より速く、より費用効果の高い手段を提供している。また、TMAはランハム法(Lanham Act)訴訟における差止救済請求を裏付けるために必要な回復不能の損害(irreparable harm)の証明について、裁判所や訴訟関係者に必要な明確性を与えることにより、現行法上のフォーラム・ショッピング(法廷地漁り)への大きな要因を排除している。最後に、商標審判部(Trademark Trial and Appeal Board)と特許審判部(Patent Trial and Appeal Board)とをさらに区別することによって、TMAは行政法判事(administrative law judges)を前裁判所に任命する方法に対する潜在的な脅威を既に排除しているようである。2つの新しい査定系(ex parte)手続から起因する訴訟法を通し、いくつかの問題点は依然として明確に、TMAの制定は商標手続及び訴訟実務において重要な変更となる。

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脚注
1Consolidated Appropriations Act of 2021, Pub. L. No. 116-260 (2020).
286 Fed. Reg. 64300 (Nov. 17, 2021).
3Pub. L. No. 100-667, 102 Stat. 3935 (1988).
4参照  generally 15 U.S.C. § 1051.
5Id. §§ 1126(e), 1141f.
6参照  id. §§ 1058, 1141k.
72019年7月18日の公聴会でのDennison長官の証言は下記よりアクセス可能で、TMAの最も重要な規定の根底にある商業的利用に関する懸念を強調している:https://www.uspto.gov/aboutus/news-updates/statement-commissioner-trademarks-mary-boney-denison-united-states-house USPTOは、現在約240万件の連邦商標登録を維持している。登録簿自体は、出願人、他の商標所有者、及び商標における登録人の所有権に関する主張を調査する弁護士に通知(notice)を提供し、それらの者が米国において登録のための商標の利用可能性を決定するために登録簿を調査することを可能にしている。この登録簿は、商業上の意思決定を行う際の貴重なツールであり、その正確さが重要である。企業は、新製品の名前を選択する際、登録簿に目を向けて、その選択された商標が使用および登録可能であるかどうかを見極める。しかし、登録が有効であるためには、登録において特定された商品及びサービスについて米国で使用されている商標でなければならない。もし、使用されていない商標、または不適切な手段によって得られた登録で登録簿が満たされているなら、商標のクリアランスはより困難になり、時間を要し、費用がかかるものとなる。不正確な登録は、不正確な登録を訂正し権利を行使するために高額な異議申立及び取消手続、又は連邦裁判所の訴訟を必要とする。そして、更に、企業にビジネスの決定を変更させ、膨大な費用を発生させる可能性がある。
. . .近年USPTOは、特に商標が商業上使用されているという主張に関して、正確かつ誠実に出願するとする法的及び倫理的義務を履行していない出願人の数が著しく増加していると認識している。USPTOは、虚偽または不正確な使用主張、及び、法律で義務付けられている通常の商業過程においてアメリカ合衆国内で商標の使用を実際に示さない偽の、又はデジタル的に変更された商標の提出を含む、商標申請及び登録保護申請を受けていることが増えていると理解している。

815 U.S.C. § 1066a(b).
9Id. § 1066a(i)(1).
10Id. § 1066a(i)(2).
11Id. § 1066b.
12Id. § 1066b(b).
13Id. § 1066b(i).
1437 C.F.R. § 2.92(e)(1).
15USPTO Examination Guide 1-21, Expungement and Reexamination Proceedings Under the Trademark Modernization Act of 2020, at 2, 下記にて利用可能: https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/TM-ExamGuide-1-21.pdf.
1637 C.F.R. § 2.92(e).
17Id. § 2.91(c)(8)(i).
18Id. § 2.6(a)(26).
1915 U.S.C. §§ 1066a(h)(1), 1066b(h)(1).
2086 Fed. Reg. at 64311.
21Id. at 64303 (citing H.R. REP. NO. 116-645, at 8 (2020) (first citing In re Pacer Tech., 338 F.3d 1348, 1351 (Fed. Cir. 2003); and then citing In re Loew’s Theatres, Inc., 769 F.2d 764, 768 (Fed. Cir. 1985)).
2237 C.F.R. § 2.91(c)(9)(i)-(v).
23Id. § 2.91(c)(9).
2486 Fed. Reg. at 64303.
25Id. at 64312.
26Id. at 64302.
2737 C.F.R. § 2.91(d)(1).
28Id. § 2.91(d)(2).
29Id. § 2.91(d)(3).
3086 Fed. Reg. at 64302.
31Id. at 64303.
32Id.
33Id.
34USPTO Examination Guide 1-21, Expungement and Reexamination Proceedings Under the Trademark Modernization Act of 2020, at 5,下記にて使用可能: https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/TM-ExamGuide-1-21.pdf; 86 Fed. Reg. at 64302も同様に参照。
3586 Fed. Reg. at 64309.
3637 C.F.R. § 2.91(c).
37Id. § 2.94.
3815 U.S.C. §§ 1066a(c)(3), 1066b(d)(3) (Supp. III 2021); 37 C.F.R. § 2.92(c)(1).
3915 U.S.C. §§ 1066a(c)(1), 1066b(d)(1); 37 C.F.R. § 2.92(a).
4015 U.S.C. §§ 1051(f), § 1066(c)(3); 37 C.F.R. § 2.92(c)(1).
4137 C.F.R. § 2.93(b)(1); 86 Fed. Reg. at 64306.
4215 U.S.C. § 1066A(j)(2).
4386 Fed. Reg. at 64304, 6314.
44Id. at 64304.
4515 U.S.C. §§ 1066a(e), 1066a(f).
4686 Fed. Reg. at 64304.
47Id. at 64316(「登録者に有利な取消や再審査手続の終了が登録に関するTTABでの将来の不使用取消訴訟を禁止する度合、又はするかどうかという疑問について、USPTOは登録者に有利な取消や再審査手続の終了が、登録に関する§ 2.111に基づき将来の不使用取消訴訟を禁止しないことを明確にした。」)
4837 C.F.R. § 2.117.
4986 Fed. Reg. at 64318.
50Id.
5115 U.S.C. § 1064(6).
52Id.
53全ての手数料は延長請求が紙のコピー、フォームよりも、電子ファイルで提出されることを前提とする。
5486 Fed. Reg. at 64306.
55Id.
56Id.
5715 U.S.C. 1051(f) (Supp. III 2021).
58Id.
5937 C.F.R. § 2.149.
60547 U.S. 388 (2006).
61555 U.S. 7 (2008).
62参照 Ferring Pharmaceuticals, Inc. v. Watson Pharms., Inc., 765 F.3d 205 (3d Cir. 2014); Herb Reed Enters. v. Fla. Entm’t Mgmt., Inc., 736 F.3d 1239, 1249-50 (9th Cir. 2013); Commodores Entm’t Corp. v. McLary, 648 F. App’x 771 (11th Cir. 2016) (per curiam).
63参照 Voice of the Arab World, Inc. v. MDTV Med. News Now, Inc., 645 F.3d 26, 33 (1st Cir. 2011); U.S. Polo Ass’n v. PRL USA Holdings, Inc., 511 F. App’x 81, 85 (2d Cir. 2013).
64参照, e.g., Warner Bros. Entm’t, Inc. v. X One X Prods., 840 F.3d 971, 982 (8th Cir. 2016); Abraham v. Alpha Chi Omega, 708 F.3d 614, 627 (5th Cir. 2013); Entm’t One UK Ltd. v. 2012Shiliang, 384 F. Supp. 3d 941, 955 (N.D. Ill. 2019).
6515 U.S.C. § 1116(a) (Supp. III 2021).
66参照. e.g., Glenn H. Curtiss Museum of Loc. Hist. v. Confederate Motors, Inc., No. 20-CV-6237 (CJS), 2021 WL 514229, at *8 (W.D.N.Y. Feb. 11, 2021)(「裁判所はもはや、「このメリットで成功する可能性を示した上で」回復不能の損害(irreparable harm)を推定することはできず、むしろ原告は、事件の事実関係において、差止命令を出さないことが回復不能の損害(irreparable harm)を実際に引き起こすことを証明しなければならない。」(原文一部変更)(引用 WPIX, Inc. v. ivi, Inc., 691 F.3d 275, 285 (2d Cir. 2012)).
67参照, e.g., ReBath LLC v. Foothills Serv. Sols. Co., No. CV-21-00870-PHX-DWL, 2021 WL 2352426, at *11 (D. Ariz. June 9, 2021)(最近制定された2020年の商標法近代化法案(Trademark Modernization Act、「TMA」)は、差止命令を求める原告に対し、「違反の認定時に回復不能の損害(irreparable harm)の反証可能な推定」を与えるよう 「第35条(a)」を修正した。)(引用 Consolidated Appropriations Act, 2021, PUB. L. NO. 116-260, § 226, 134 STAT. 1182 (2020)).
68Rule 301 は次のように規定している:

議会法又は本規則に別段の定めのないすべての民事訴訟及び手続において、推定は、それが向けられた当事者に推定に反論し又は推定を満たす証拠を提出する負担を課すが、説得不能の危険という意味での立証責任(burden of proof)を当該当事者に転嫁するものではなく、公判を通じて推定が最初に向けられた当事者に残る。

FED. R. EVID. 301.
69参照, e.g., A.C. Aukerman Co. v. R.L. Chaides Constr. Co., 960 F.2d 1020, 1037 (Fed. Cir. 1992) (「推定は単に反証可能なものではなく、推定された事実が存在しないことの発見を裏付けるのに十分な証拠を導入することによって完全に消滅する」と述べた); Saratoga Vichy Spring Co. v. Lehman, 625 F.2d 1037, 1043 (2d Cir. 1980) (「反証可能な前提は. . .反対の証拠に直面して消え、あるいは反対の証拠にもかかわらず、放棄する意図を推論することを許可する。」)
70941 F.3d 1320 (Fed. Cir. 2019), affirmed in part and reversed in part, 141 S. Ct. 1970 (2021).
71U.S. CONST. ART. II, § 2, Cl. 2.
72Arthrex, 941 F.3d at 1338-40.
73See United States v. Arthrex, Inc., 141 S. Ct. 1970, 1987-88 (2021).
7415 U.S.C. §§ 1068, 1070, 1092 (Supp. III 2021).
75Pub. L. No. 116-260, § 228(a)-(b) (2020).
76141 S. Ct. at 1987.
7711 F.4th 1363 (Fed. Cir. 2021).
78Id.
79Id. at 1374.

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