Alerts 話題先行、その実力は:米国AIフレームワークの真価を探る
Written by Meghan K. Farmer, John M. Brigagliano and Katherine S. Kubik (和訳:穐場 仁)
バックグラウンド
米国は、州ごとにバラバラに存在するAI関連法の寄せ集めを一掃しようとしている可能性があるが、それに代わる十分な制度を設けない可能性もある。ホワイトハウスが提案している「人工知能に関する国家政策フレームワーク (National Policy Framework for Artificial Intelligence、フレームワーク)」は、一定の州法を連邦法が優先して排除することを含め、AI規制をより中央集権的な連邦主導のアプローチへと転換する可能性を示している。
本フレームワークは、議会への法案提出が提案されている以下の7つのカテゴリーに焦点を当てている:
1. 子どもの保護と親の権限強化
2. 米国社会の安全確保と強化
3. 知的財産権の尊重とクリエイターの支援
4. 検閲の防止と表現の自由の保護
5. イノベーションの促進と米国のAI分野における優位性の確保
6. 国民への啓発とAI対応人材の育成
7. 煩雑な州のAI法を排除する連邦政策枠組みの確立
本フレームワークは、AI分野における米国の競争力を阻害していると主張される、州ごとのAI規制のばらつきを防ぐための連邦AI政策を提示することを目的としている。しかし、本フレームワークは、直ちに遵守すべき規制としてではなく、方向性を示す政策的なシグナルとして理解するのが適切である。本フレームワークは法的拘束力を生じさせるものではなく、現時点で企業に課されている既存の法的要件を変更するものでもない。
知っておくべきこと
本フレームワークは、AIに関する多くの既存の州規制に優越する形となる。各州は、詐欺防止、消費者保護、児童性的虐待素材の禁止など、一般的に適用される独自の法律を引き続き施行することは可能だが、AIの利用および開発に関連するその他のすべての州法は、本フレームワークによって提案される立法によって優越されることになる。ただし、本フレームワーク自体は、児童によるAIシステムの利用に関連する事項を除き、AIの利用や開発に対する制限や安全策をほとんど提案しておらず、州法を直ちに無効にするものではない。
これは、特に連邦法の優先適用や、より緩やかな規制アプローチという点において、米国のAI政策が今後どのような方向に向かうかについての重要な示唆となる。ただし、これによって直ちに法的義務が生じるわけではない。社内チームにとっての実務上覚えておくこととしては、当面は変更の必要はないが、連邦レベルの立法動向が進展するにつれ、その方向性を注視しておく価値があるということである。
議会への提案と州法への影響
連邦政策のフレームワークの確立、煩雑な州のAI法に対する連邦法の優先適用
これは本フレームワークの最後のカテゴリーではあるが、このフレームワークの根本的な意図は、州のAI法に優先する連邦AI政策を確立することにある。本フレームワークは、AI開発を規制する州法、AIを使用せずに実施すれば合法となる活動に対する米国人のAI利用に不当な負担を課す州法、および第三者がそのモデルを使用して行った違法行為についてAI開発者に罰則を科す州法について、連邦議会 (Congress) がこれらを排除するよう明示的に指示している。しかし、現時点では、これはあくまで立法上の提言に留まっている。連邦議会がこれらを実施する法を制定しない限り、企業は開示要件、デジタル複製物の制限、およびその他の州固有の義務を含む、適用される州のAI法を引き続き遵守しなければならない
本フレームワークはAI開発者に広範な裁量権を与え、AI関連のリスクに対処するために一部の州が導入した規制上の安全策を弱める可能性がある。もし議会がこれらの方針に従えば、一部の議員が有益と見なしている州法は、連邦法によって優越されることになる。逆に、このフレームワークは、そのような危害から米国市民を保護する立法を一切提案していない。例えば、カリフォルニア州、コロラド州、ニューヨーク州、ユタ州、メイン州はいずれも、消費者がAIチャットボットとやり取りしていることを何らかの形で開示することを義務付けている。カリフォルニア州とイリノイ州は、個人のデジタル複製物を作成し、その個人が行うべき業務を遂行するためにAIを使用することを禁止している。カリフォルニア州では映画産業の影響力が非常に大きいことを考えると、俳優が本来自分が演じるはずの役をデジタル複製物に“演じさせる”ことを嫌がるのは理解できる。
重要な点として、「知的財産権の尊重とクリエイターの支援」というカテゴリーにおいて、本フレームワークは、パロディ、風刺、ニュース報道、および合衆国憲法修正第1条 (First Amendment) によって保護されるその他の作品を除き、個人の声、肖像、その他の識別可能な属性のAI生成デジタル複製物の無断配布や商業的利用から個人を保護する連邦枠組みの制定を、議会が検討するよう求めている。本フレームワークの他の箇所とは異なり、議会に対しては、そのような法律の制定を「検討」するよう求められているに過ぎない。アーカンソー州、カリフォルニア州、イリノイ州、テネシー州、ニューヨーク州はいずれも、個人の肖像のデジタル複製物の無断配布や商業利用から保護する法律を有しているが、議会が同様の保護措置を制定するかどうかに関わらず、これらは本フレームワークによって優先されることになる。
子どもの保護と保護者の権限強化
本フレームワークでは、未成年者が利用する可能性のあるAIプラットフォームについて、連邦議会 (Congress) が以下の措置を講じることを推奨している:
・商業的に合理的かつプライバシーを保護する年齢確認要件を確立すること;
・AIプラットフォームおよびサービスに対し、性的搾取や自傷行為のリスクを低減するための機能を実装することを義務付けること;
・保護者が子どものプライバシー設定、スクリーン・タイム、コンテンツへの接触、アカウント管理を適切に行えるよう強力なツールを提供すること、および
・既存の児童プライバシー保護措置 (児童オンラインプライバシー保護法を含む) がAIシステムに適用されることを明記すること;および
・AIによって生成されたものであっても、児童性的虐待素材の禁止など、児童を保護する州の一般適用法を州が施行することを連邦議会が妨げないことを確保すること。
本フレームワークは、身元が判明している未成年者がアクセスするAIの規制において、特に積極的な取り組みを行っている州と大幅な重複を持つような連邦議会の立法を推奨している。場合によっては、本フレームワークが提案する立法は、未成年者を保護するために制定された既存の州法を排除することになる。カリフォルニア州やニューヨーク州では、身元が判明している未成年者がアクセスするコンパニオン型チャットボットに対し、チャットボットは人間ではないことを定期的に通知するなどの厳格な要件を課しているが、本フレームワークに基づいて制定される立法により、これらの要件は排除されることになる。
しかし本フレームワークでは、連邦議会に対し、児童を保護する各州の一般法が施行されることを妨げないよう確保することが求められている。アラスカ州、コロラド州、マサチューセッツ州、オハイオ州、バーモント州、およびワシントンD.C.を除くすべての州は、AI生成画像や未成年者のディープフェイクが児童性的虐待素材とみなされるよう刑法を改正している。これらの刑法規定は、このフレームワークに基づいて策定される立法によって、明示的に優先されないこととなる。
一部の州 (カリフォルニア州、メリーランド州、ネブラスカ州、バーモント州、サウスカロライナ州を含む) は、AIプラットフォームやサービスだけでなく、すべてのオンラインサービスに適用される「年齢適正デザインコード法 (Age Appropriate Design Codes)」を可決している。ケンタッキー州は、Character.AIに対し、未成年者の保護を怠ったとして、同州の包括的なデータ保護法違反を理由に訴訟を起こした。明示的ではないものの、本フレームワークは、提案されている立法が児童に関連するこれらの「年齢適正デザインコード法 (Age Appropriate Design Codes)」および州の包括的なデータ保護法の適用を排除することを意図していない可能性が高い。
アメリカ社会の保護と強化
本フレームワークは、拡大するAI産業に必要なインフラを含め、AI開発の拡大を支援すると同時に、納税者を保護することを目指している。納税者保護の達成のために、本クレームワークでは議会 (Congress) に対し、一般家庭の電気料金が上昇しないよう確保すること、AIインフラ建設に関する連邦政府の許可手続きを効率化すること、脆弱な立場にある人々を標的としたAIを利用したなりすまし詐欺や不正行為に対抗するための法執行機関の取り組みを支援すること、および助成金や税制優遇措置などのAI関連リソースを中小企業に提供することを推奨している。なお、本フレームワークでは、地域社会に設置される大規模なAIデータセンターによって生じる追加費用を、一般家庭の電気料金負担者に転嫁しないようにする方法についての指針は示されていない。
またこのフレームワークは、国家安全保障に関わる適切な機関が、最先端AIモデル (frontier AI models) の能力および関連する国家安全保障上の考慮事項を理解するための十分な技術的能力を確保するよう、議会に指示している。カリフォルニア州とニューヨーク州は、国家安全保障に対するリスクに留まらないリスクも考慮して、最先端AIモデルの開発を規制する同様の法律を制定している。これには、大規模な最先端モデルの開発者に対し、当該モデルの開発方法、特定されたリスクおよびその軽減策、重大な安全事故が発生した場合の報告要件、ならびにこれらの要件を遵守しなかった場合に州司法長官 (state Attorney Generals) が科すことのできる罰則を記載した、最先端AIフレームワークを作成、実施、遵守し、かつ明確かつ目立つ形で公表する義務が含まれる。コロラド州には、より一般的に高リスクAIシステムに適用される同様の法律がある。連邦議会が州のAI法、特にAI開発を規制するために設計された法律に優先するべきであるというフレームワークの勧告を踏まえると、カリフォルニア州、コロラド州、ニューヨーク州の法律は、AIモデルの開発に関する連邦政府のより限定的なリスク評価によって優越されることになるだろう。
知的財産権の尊重とクリエイターの支援
本フレームワークは、知的財産権に関する問題について議会 (Congress) により広い裁量権を与え、AIプロバイダーからの補償を団体交渉によって可能とするライセンス枠組みや集団的権利制度の導入を検討するよう単に指示しているに過ぎない。ただし、本フレームワークでは、仮に議会がそのような法案を可決した場合であっても、その法案において、ライセンスの枠組みがいつ、あるいは必要とされるか否かについて規定することはできないとしている。
また、本フレームワークは、パロディ、風刺、ニュース報道、および合衆国憲法修正第1条 (First Amendment)によって保護されるその他の作品については例外とするものの、個人の声、肖像、その他の識別可能な属性のAI生成デジタル複製物の無断配布や商業的利用から個人を保護する連邦枠組みの確立を検討するよう議会に求めている。前述の通り、これは、たとえ議会で制定されなかったとしても、複数の州における同様の規制に優先するものである。
検閲の防止と表現の自由の保護
本フレームワークは、米国政府がAIプロバイダーを含むテクノロジープロバイダーに対し、党派的な目的やイデオロギー的な意図に基づいてコンテンツの禁止、強制、または変更を強要することを防止するよう議会 (Congress) に指示するとともに、AIプラットフォーム上での表現を検閲したり、AIプラットフォームが提供する情報を指示したりする連邦政府機関の行為に対して、米国市民が連邦政府に救済を求めるための効果的な手段を提供するものである。
これにより、実質的に、個人が、AIプラットフォームに対し、党派的なあるいはイデオロギー的な意図に基づいていると信じる特定の出力を生成するよう何らかの形で要求していると考える連邦機関を、アメリカ国民が提訴する私的訴訟権が認められることになる。
イノベーションの促進と米国のAI分野における優位性の確保
本フレームワークは、イノベーションの障壁を取り除き、AIアプリケーションの導入を加速することを目的としている。達成するため、議会 (Congress) に対しAIアプリケーション向けの規制サンドボックスを設立すること、およびAIモデルやシステムのトレーニングに使用できるよう、産業界や学術界が利用可能な形式で連邦政府のデータセットを提供するためのリソースを確保することが求められている。なお、本フレームワークでは、連邦政府のデータセットにどのようなデータが含まれるかについては具体的に規定していない。本フレームワークは、AIを規制するための新たな連邦規則制定機関を創設せず、代わりに既存の規制機関を通じて、各セクターに特化したAIアプリケーションの開発と導入を支援するよう議会に指示している。
AIによるリスクに対処するために新たな規制機関を設立する権限を排除することは、業界を横断して使用される単一のAIシステムに適用される業界標準がバラバラになる結果を招きかねず、また、AIに関する専門知識がほとんどない政府機関の職員に規制策定の負担を強いることになる。これはAI開発者に最大限の柔軟性を与えることを意図したものだが、結果として規制が不整合になったり、規制対象となる技術の現実を反映しないものになったりする恐れがある。
国民への啓発とAI対応人材の育成
AIによる労働者の代替に関する懸念に暗黙のうちに配慮しつつ、本フレームワークは既存の教育プログラムや労働力育成プログラムにAI研修を組み込むこと、land-grant institutionsが技術支援を提供する能力を強化し、若者を対象としたAI育成プログラムを開発すること、そして業務レベルでの労働力再配置の動向に対応するための連邦政府の取り組みを拡大すること、を議会 (Congress) に求めている。
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