Alerts 中国のAIに関する改訂特許審査ガイドライン:明細書作成者に向けた6つの実践的アドバイス
Written by Charles W. Gray (和訳:穐場 仁)
2026年1月1日施行の中国国家知識産権局 (China National Intellectual Property Administration, CNIPA) による改訂特許審査ガイドラインでは、AIに特化した審査規則が次の3つのレイヤーで追加された。新規性および進歩性とは独立して判断され得る倫理及び法的コンプライアンス上の要件、単に既存技術を別の適用場所へ移しただけでは進歩性を認めないより高い進歩性の基準、そしてブラックボックス型AIの明細書作成のリスクを実質的に増大させるより厳格な開示要件の基準である。中国へ出願を行う米国の明細書作成者にとって、形式的な変更はわずかだが、明細書作成に臨む基本姿勢は大きく変わる。
6つの実務上のヒント:
1. AIに関連するすべての明細書に、個人情報保護法 (Personal Information Protection Law, PIPL) および公平性 (fairness) に関する遵守声明を追加する。
Chapter IX Part IIの新設されたSection 6.1.1では、倫理的および法的コンプライアンスが、新規性および進歩性とは独立して判断され得る特許性の要件となっている。例示された事例では、クレームされた発明が、適用される法的、倫理的、または公益上の要件に違反し拒絶される可能性が高い例として、隠蔽された顔認識や人口統計学的重み付けされた意思決定ロジックが挙げられている。中国向けに明細書を作成する際は、(a) 個人情報保護法 (Personal Information Protection Law) に基づく法を順守したデータ取得、必要に応じてユーザーからの個別の同意を含む、(b) 個人データの匿名化または非識別化、および (c) 意思決定、推薦、またはスコアリング・モデルにおいて、違法な差別的扱い、またはその他の法的に禁止された結果を回避するために設計された管理措置を網羅した簡潔なコンプライアンスに関する記述を追加する。この記述は、明細書内に保持し、米国の継続出願や中国の分割出願にも引き継ぐ。
2. 明細書のシナリオを主導的ストーリーにしない。
新たな進歩性の判断事例では、既知のディープ・ラーニング・モデルを新しい分野に適用するだけでは、それ以上のものがない限り、中国においてもはや進歩性を裏付ける根拠とはならないことが確認されている。「従来のCNN、新しい対象物 (conventional CNN, new target object)」という内容で出願された特許出願は、拒絶を通知される可能性が高いだろう。モデル・アーキテクチャ、レイヤー構成、損失関数、トレーニング・パイプライン、またはデータ処理ワークフローに対するターゲットを絞った修正を中心に開示を構成し、それらの修正により解決される技術的課題を説明する必要がある。単に適用するだけのシナリオはストーリーを支えるものであっても、もはやストーリーそのものではない。
3. モデルの開示は、ブロック図 (block-diagram) ではなく、モジュール (module resolution) を開示すること。
Section 6.3.1では、発明を実施可能にし、技術的貢献を裏付けるために、明細書には必要不可欠なモジュール、階層構造、接続関係、学習手順、および必要なパラメータを記載すべきであると規定している。3つのラベル付きのボックスが描かれた1ページのアーキテクチャ図だけでは不十分である。学習された各コンポーネントについて、それが何を行うのか、どのように学習されるのか、どのようなデータが入力されるのか、そして隣接するモジュールとどのように相互接続されるのかを開示すること。周知の従来の構成要素 (building blocks) については簡潔な説明でもよいが、発明上の重要性を有する要素については、当該技術分野における通常の知識を有する者が再現できる程度に十分な詳細さで説明しなければならない。
4. 入力から出力への因果関係のロジックを説明すること。
新たな「ブラックボックス」の事例では、入力と対象となる技術的課題の関連性を示さずに、実質的に「特徴量A、B、Cをモデルに入力すると、出力Dが得られる」とだけ記述した明細書は拒絶を受ける。明細書を作成する際には、(a) なぜその各入力特徴量が選択されたのか、すなわち、その特徴量と技術的結果との間の因果関係、(b) 各ネットワーク・モジュールがその特徴量をどのように処理するか、および (c) モデルの出力が最終的な技術的効果にどのようにマッピングされるのか、を開示すること。これは主に明細書の記載および開示の十分性に関する問題であるが、クレームされた範囲のサポート要件にも影響を及ぼす可能性がある。これを最初に対処しておくことで、補正によって是正することが困難な開示不十分を理由とした拒絶を回避できる。
5. 発明的ではない詳細部分については、クレームの範囲を保護するため許容的 (permissive) な表現を使用すること。
ある詳細部分が発明的ではないものの、開示の十分性を満たすために開示せざるを得ない場合は、当該技術分野における通常の知識を有する者が通常の設計の選択肢として解釈できるような、「一実施形態において (in one embodiment)」、「いくつかの実施形態において (in some embodiments)」、あるいは「~として構成され得る (may be configured as)」といった許容的な表現 (permissive phrasing) を使用する。ただし、特定のモジュールの位置やハイパーパラメータが当該技術分野における通常の設計上の選択の範囲内にあると明示的に述べる場合は注意が必要である。そのような記述は、開示の十分性に関する拒絶を招くことなく、それらの詳細をクレームの範囲外に保つのに役立つ一方で、特徴が「通常の (routine)」ものであると直接認めることは、その特徴が後に重要となった場合に、進歩性の判断において不利に引用される可能性がある。「通常の設計上の選択 (routine design choice)」という文言は、発明の寄与に明らかに含まれない詳細についてのみ使用する。これは、米国の実務で既に使用されている開示の慣例にも沿ったものである。
6. 技術的効果を定量化する。
改訂された進歩性の枠組みでは、先行技術に対して測定可能な差異を示している出願が評価される。開示されたアーキテクチャや学習方法の変更による効果を実証する比較実験データ、アブレーション (ablations)、および定量的指標 (精度、正確性または再現率、計算オーバーヘッド、メモリ使用量、分布シフト下での堅牢性、レイテンシ) を含める。先行技術に比較可能なデータがない場合、数値的な証拠は進歩性の主張を裏付けることができ、また、通常の最適化 (routine-optimization) を理由とした拒絶に対して記録を擁護するのに役立つ。
Click here for the original English version.