Alerts Abitron Austria GmbH v. Hetronic Int’l, Inc.: 最高裁、ランハム法(Lanham Act)の域外適用(Extraterritorial Application)を制限 – Abitron Austria GmbH v. Hetronic Int’l, Inc.: The Supreme Court Restricts Extraterritorial Applications of the Lanham Act

2023年06月29日

Written by Theodore H. Davis Jr.  (和訳:穐場 仁)

I. イントロダクション

Abitron Austria GmbH v. Hetronic Int’l, Inc., 1 において、米連邦最高裁判所は、ランハム法(Lanham Act, 米商標法)の域外適用に関する制限的な判断を採用した。これにより、同裁判所は、連邦巡回控訴裁判所の間で優勢であった「連邦法の域外適用を認めない方向の一般的推定はランハム法の条文により退けられている」との見解を否定した。その代わりに、最高裁は他の文脈で採用してきたものと同じ2段階テストを採用し、以下のように判示した:(1) 連邦議会はランハム法が外国での行為に適用されることを肯定的かつ明確には規定していない、さらに、(2) 本事件で主張されている侵害行為の少なくとも一部の焦点は米国内には存在しなかった可能性がある。したがって、今後、ランハム法の私的訴因は、このような焦点を持つ請求にのみ適用されることになり、同法に基づいて侵害で訴えられた米国外の被告は、その商標の使用に責任があると認定されるためにはその商標を国内で商取引に使用していなければならないことになる。

II. 判決のバックグランド

A. 連邦巡回控訴裁判所における見解の相違

Abitron(本事件)の議論は、勝訴した原告が、被告による商標およびトレードドレス侵害品の欧州での販売から生じた利益の情報を確保することに成功した訴訟から生じているものである。2 この判決で、最高裁は71年前のSteele v. Bulova Watch Co.3 の判決でやり残されたことを取り上げ解決している。すなわち、Steeleにおいて、裁判所は、米国法の域外適用が一般的には認められないとの推定を示している。4 一方、同時に、原告のBULOVAマークを模倣した偽物の時計をメキシコで販売するビジネスを営んでいた米国市民および居住者に対し、かかる時計が修理のために米国の原告代理店に持ち込まれた場合において、同米国市民等に侵害の責任があるとの下級審判決を支持した。この事案について最高裁は次のように示している:

ランハム法における広範な管轄権の付与に照らして、我々はその範囲が上訴人の今回の活動を包含するとみなす。彼の活動とその効果は外国の領土範囲内に限定されたものではない。彼は米国内で商品の構成部品を購入し、偽の「Bulovas」がメキシコ国境を越え米国に流入している。彼の商品は、米国および外国での広告によっても開拓された市場においてBulova Watch Companyの取引上の評判に悪影響を及ぼす可能性がある。

最高裁が同法の域外適用を評価するための基準を明確にしなかったことから、第2、第11および連邦巡回区控訴裁判所は、いわゆるVanity Fair基準を採用した。この基準は、(1)被告の行為が米国の商取引に実質的な影響を及ぼすかどうか、(2)被告が米国市民であるかどうか、(3)関連する外国法に基づいて確立された商標権と抵触があったかどうか、を考慮する。6 第4および第5巡回区控訴裁判所も同様にVanity Fair基準に傾倒したが、第4巡回区は第1要素を(「実質的な」影響とは対照的である)「重要な」影響7 を必要とするように修正し、第5巡回区は被告の行為が米国内の商取引に「何らかの」影響を及ぼすことの証明のみを必要とするだけであった。8 第9巡回区控訴裁判所は独自の三者テストを採用し、以下の場合に域外適用に対する賠償責任を認めた:(1)その行為が「アメリカの国外商取引」に「何らかの」影響を及ぼした、(2)その影響は原告に損額を与えるほど十分に認識可能であった、(3)アメリカの国外商取引の利益とその結びつきが、他国の利益との関係において、域外適用の主張を正当化するほど十分に強かった。9 最後に、第1巡回区控訴裁判所は反トラスト法に基づくMcBeeテストを適用した。すなわち、(1) 被告が米国市民である場合、通常ランハム法が域外適用される。なぜなら、「米国市民の外国での活動であっても、その活動を支配することについて憲法上の個別の管轄権の根拠が存在する」からである。10 しかし、(2)被告が米国市民でない場合には、ランハム法が、「ランハム法の目的に照らして、「米国の」商取引に実質的な影響を及ぼす場合にのみ」適用される。11 

B. Abitron(本事件)の背景事実と下級審の判断

第10巡回区控訴裁判所は、他の巡回区に存在する競合するアプローチの中から第1巡回区のアプローチを選択したが、それには「1つの補足事項」12が存在した。その補足事項とは、裁判所が域外適用に関する第3の前提条件、すなわち、「原告が外国被告の行為が米国の商取引に実質的な影響を及ぼしたことをうまく示すことができた場合、裁判所はランハム法の域外適用が関連する外国法に基づいて確立された商標権との抵触を生じさせるかどうかも考慮すべきである」を付け加えているものである。13McBee判決はそのような分析を避けた」が、裁判所は「他の巡回裁判所すべてが、ランハム法の域外適用を評価する際に、外国法との抵触の可能性を考慮している」と説明した。14 そして、その判示を次のように要約した:

ランハム法が域外適用されるかどうか判断する際に、裁判所は次の3つの要素を考慮すべきである。第一に、裁判所は被告が米国市民であるかどうか考慮するべきである。第2に、被告が米国市民でない場合、裁判所は、被告の行為が米国の商取引に実質的な影響を及ぼしたかどうかを評価すべきである。第3に、原告が実質的な影響テストを満たしている場合にのみ、裁判所は、ランハム法の域外適用が関連する外国法に基づいて確立された商標権との抵触を生じさせるかどうかを考慮すべきである。15 

そして、控訴審はこの新しいテストを適用して、ランハム法が確かに被告の行為に及んでいると判断した。これら被告は、いずれも米国市民でも居住者でもなく、10年近くにわたり、原告の商標とトレードドレスを付した大型建設機械用の無線遠隔制御装置を製造していた。しかし、被告が「当事者間の古い研究開発契約」に基づき、問題の商標は原告ではなく被告が所有していると結論づけたため、両当事者の友好関係は急速に終結した。その後、彼らは陪審により侵害が認定され、かつ、全世界で販売することを禁止された後にも、米国外において商標を付した商品を製造し、販売し続けた。これらの商品の一部は米国市場に出回り、被告は少なくともその一部を米国の消費者に直接販売したようである。

このような事実は、被告の行為が米国の商取引に必要な実質的な影響を及ぼしたかどうかという問題について、特に被告の商品に出会った米国の消費者が商品の出所について実際に混乱したという原告の証拠に照らして、裁判所が原告に有利な判断を下すのに十分であった:

証拠を総合的に見ると、原告は、被告の外国侵害行為が米国の商取引に実質的な影響を及ぼしたことを示すのに十分すぎる証拠を提示している。最初に海外に販売された後、米国に流入した何百万ユーロ相当の侵害製品に加え、被告は、最終的に米国に流入するはずだった数千万ドルの海外売上も掠め取っていた。さらに、原告の証拠の多くは海外での消費者の混乱に焦点を当てたものであったが、米国の消費者の間で混乱が生じた事例も数多く記録されている。したがって、原告は、米国がこの訴訟において合理的に強い関心を持つに足りる十分な性格ならびに規模の米国内の影響の証拠を提示したと結論付ける。従って、ランハム法は、被告の外国での侵害行為すべてに及び域外適用が適用されると判断された。16 

裁判所は、陪審員によって決定された利益の計算結果も支持した。これには被告の売上高全体に対する利益も含まれていた。裁判記録には、売上の97%がヨーロッパの顧客に対するものであり、米国に直接販売されたのはわずか3%であったという証拠や証言があるにもかかわらず、このような判断が下された。

以上の背景のもと、最高裁は被告側の上訴申立(a writ of certiorari)を認め最高裁にて審理すべき1つの問題を設定した。その問題とは、「控訴裁判所が、米国に到達せず、米国の消費者を混乱させることもない純粋な外国での販売も含め、上訴人の外国での販売にランハム法の域外適用したのは誤りであったかどうか」ということであった。17 

III. 最高裁判決とその意義

A. 域外適用の最高裁の2段階テスト

最高裁は、まずMorrison v. National Australia Bank Ltd.,18   RJR Nabisco, Inc. v. European Community,19 WesternGeco LLC v. ION Geophysical Corp.,20 Nestlé USA, Inc. v. Doe,21  におけるSteele 判決を参照し、ランハム法成立時に連邦議会が領域性に関する推定を覆したという連邦控訴裁判所の間での一般的な合意の妥当性を検討した。これらの判決は連邦法に基づく外国人行為者の責任についての2段階テストを確立しているとした。そのステップ1は、「議会が問題となっている条項を「外国行為に適用する」、肯定的かつ明白に指示したかどうか」を判断することであった。22 ステップ2はより複雑で:

かかる条項が域外適用を指示されていない場合、ステップ2に移る。これは、訴訟が各条項の(許容されている)国内適用を求めているのか、それとも(許容されていない)国外適用を求めているのかを判断する。この判断を下すために、裁判所は、問題となっている条項の根底にある「議会の懸念の焦点」を特定することから始めなければならない。. . . .

ステップ2は、法制上の焦点を特定するだけでは終わらない。. . . .その請求が法令の国内適用に関連することを証明するためには、「原告は、法令の焦点に関連する行為が米国内で発生したことを立証しなければならない」。23

「ステップ2」は、「国内外の活動の両方を含む請求に関し、重要な活動とそうでない活動を分離し、域外適用を認めないとの推定を適用するよう設計されてきた」ものである。24 「結局のところ、いかなる国内の行為であってもこの推定を覆すことが出来てしまうのであれば、その推定そのものが無意味であることを我々は長い間認識してきた」と結論づけた。25

B. テストの適用

2段階テストのステップ1をランハム法に適用するにあたり、最高裁は、「ランハム法は「域外適用の明示的な記載がないにもかかわらず、域外適用の影響が明確に証明される稀な法令」である」と指摘した。26 そして、ランハム法32(1)および43(a)27 に基づく原告の主張ついて次のように結論づけた。

いずれの条項、域外適用に関する明示的な記述や、またはそれにも関わらず国外でも適用される「稀な」規定の1つであることを示す明確な兆候はない。どちらとも、保護される商標の使用が「混乱を引き起こす可能性が高い」場合に、議会が規定した条件下での「商業的」使用を禁止しているだけである。28

このように結論として、最高裁は、同法第45条に見られる「商取引」の独特な定義—すなわち「「商取引」とは、議会が合法的に規制することができる全ての商取引を意味する」29 —を根拠に、被告の行為が米国内の原告に及ぼす影響によって訴因となり得るとの主張を退けた。それに代わり、最高裁は、過去に「商取引」の定義として「外国商取引」を明示的に含む法令の域外適用を制限したことがあるだけでなく30 、「ランハム法が、他の法令で使用されている、いわゆる「定型的な」定義から逸脱した. . .定義を含んでいるという事実だけで、異なる結論を正当化することはできない. . . .」とした。31

この判断は、ランハム法の焦点に関連する被告の行為が米国内で行われたかどうかという第2のステップに関する検討の余地を残した。最高裁は、第1審でこの問題を解決するために訴訟を差し戻したが、その際、下級裁判所にいくつかの指針を示した。しきい値として、「当事者が提示した焦点に関する行為は、法が規定するとおり、商取引における侵害的使用である」とした。32 そして、法第45条に規定された商取引での使用の定義を参照し、「商取引での使用」という用語は、商標が商品を識別および区別し、. . .かつ商品の出所を表示する」33 役割を果たす、「通常の取引過程における商標の善意の使用を意味する」と判断した。その際、最高裁は、被告が商取引において訴追可能な使用を行ったかどうかの評価に第45条が適用可能かどうかという問題に関して、下級審で(おそらく現在は解決されている)意見の相違を認めず、議論もしなかった。34

IV. 結論

連邦議会がランハム法制定時に域外適用に対する推定を覆さなかったと判示したことで、Abitronでの最高裁は、Steeleでの最高裁判決から71年間、多くの連邦控訴裁判所が採用してきた反対の結論を破棄した。さらに、最高裁は、同時期に同じ裁判所によって適用された域外適用に関する様々なテストについても背を向けた。最後に、被告が商取引において訴追可能な使用を行ったかどうかの評価は、ランハム法第45条に基づく商取引における原告の使用の適切性に関する調査に歴史的に適用されてきた商取引における使用の定義に従うべきであるという裁判所の結論も潜在的に重要である。個別に考慮されるか、全体として考慮されるかに関わらず、これらの発展の長期的な影響はすぐには明らかにならない。しかし、明らかなことは、米国外の被告によるランハム法違反の主張に反論する原告は、単に疑われる国内で影響の主張に頼るのではなく、それらの違反の原因が米国内にあることを立証する計画を立てるべきであるということである。

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1No. 21-1043, 2023 WL 4239255 (U.S. June 29, 2023).
2See Hetronic Int’l, Inc. v. Hetronic Germany GmbH, 10 F.4th 1016 (10th Cir. 2021), vacated and remanded, No. 21-1043, 2023 WL 4239255 (U.S. June 29, 2023).
3344 U.S. 280 (1952).
4See id. at 285 (“連邦議会の立証は、反対の立法趣旨が明確でないかぎり、米国の境界を越えて拡張されることはない”)。
5Id. at 286.
6See Vanity Fair Mills, Inc. v. T. Eaton Co., 234 F.2d 633, 642 (2d Cir. 1956); see also Int’l Cafe, S.A.L. v. Hard Rock Cafe Int’l, (U.S.A.), Inc., 252 F.3d 1274, 1278 (11th Cir. 2001); Aerogroup Int’l, Inc. v. Marlboro Footworks, Ltd., 152 F.3d 948, 1998 WL 169251, at *2 (Fed. Cir. 1998) (per curiam) (unpublished).
7See Nintendo of Am., Inc. v. Aeropower Co., 34 F.3d 246, 250 (4th Cir. 1994).
8See Am. Rice, Inc. v. Ark. Rice Growers Coop. Ass’n, 701 F.2d 408, 414 n.8 (5th Cir. 1983).
9Trader Joe’s Co. v. Hallatt, 835 F.3d 960, 969 (9th Cir. 2016) (alteration in original).
10 McBee v. Delica Co., 417 F.3d 107, 111 (1st Cir. 2005).
11Id.
12Hetronic, 10 F.4th at 1036.
13Id. at 1037.
14Id. at 1030.
15Id. at 1038.
16Id. at 1045–46.
17Petition for Writ of Certiorari at (I), Abitron Austria GmbH v. Hetronic Int’l, Inc., No. 21-1043, 2023 WL 4239255 (U.S. Jan. 2, 2022), 2022 WL 253018, at *(I).
18561 U.S. 247 (2010).
19 79 U.S. 325 (2016)
20138 S. Ct. 2129 (2018).
21141 S. Ct. 1931 (2021).
22Abitron, 2023 WL 4239255, at *4 (quoting RJR Nabisco, 579 U.S. at 335, 337).
23Id. (first quoting RJR Nabisco, 579 U.S. at 336; then quoting Nestlé, 141 S. Ct. at 1936).
24Id.
25Id.
26Id. at *5 (quoting RJR Nabisco, 579 U.S. at 337).
2715 U.S.C. §§ 1114, 1125(a) (2018).
28Abitron, 2023 WL 4239255, at *4 (quoting 15 U.S.C. §§ 1115(1)(a), 1125(a)).
2915 U.S.C. § 1127.
30Abitron, 2023 WL 4239255, at *5 (first citing Morrison, 561 U. S., at 262–263; then citing RJR Nabisco, 579 U.S. at 344). 同裁判所はこの点について、「「国外商取引」に関する明示的な法令上の言及が推測を覆すのに十分でないのであれば、国外商取引を規制する議会の権限に言及する「商取引」の定義についても同様でなければならない。条項で、議会が規制できる「すべての」商取引に言及しているからといって、その結果が変わることではない」。Id.
31Id.
32Id. at *6.
33Id. at *9 (quoting 15 U.S.C. § 1127).
34That split is summarized in 4 J. THOMAS MCCARTHY, MCCARTHY ON TRADEMARKS AND UNFAIR COMPETITION § 23:11.50 (5th ed.).