Alerts 便乗値上げ(price gouging)と戦うための商標法の利用: 消尽論(exhaustion doctrine)に注意
Written by Theodore H. Davis Jr., Jennifer Fairbairn Deal and Allison Berman (和訳:穐場 仁)
注:以下の情報は、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的流行が引き続き継続しているため、説明の追加を含めたアップデートが必要となる可能性がある。
アップデートについては、弊社の COVID-19タスクフォースページ、および/または弊所からのアラート・メールをご確認ください。
2020年4月10日、有名な科学・医療製品メーカーである3Mは、新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックに際し、商標侵害、商標希釈化(dilution)の可能性、便乗値上げ(price gouging)に基づく虚偽広告(false advertising)を主張し訴訟を提起した最初の企業の1つとなった。1
この訴訟は、パンデミックに誘発された便乗値上げ(price gouging)と闘うための商標法の使用に関し多くの問題を提起している。
これらの中で最も重要なものは、商標所有者が自社製品の再販売に挑戦する力を制限する、ファースト・セール・ドクトリン(first-sale doctrine)、または消尽論(exhaustion doctrine)の適用可能性である。
この記事は、商標所有者が、自身の商品の便乗値上げ(price gouging)に対する訴訟におけるこれら法理(doctrine)の重要性と、これら法理(doctrine)の影響を緩和するための戦略に関するものである。
3Mの訴訟
3Mは、被告であるPerformance Supply, LLCを、3Mの商標に化体する信用を不正に用いた虚偽かつ不当な便乗値上げ(false and deceptive price gouging)を行ったとして提訴した。
具体的には、3Mは、Performance Supplyがニューヨーク市の調達局(New York City’s Office of Citywide Procurement)に入札を提出し、3MブランドのN95マスクを希望小売価格より500~600%高い価格で市に販売することを提案した、と主張している。
市の調達局は、必要とされるN95マスクを確保するため入札を受け入れ、4,500万ドル近くを支払うことに同意した。
2020年4月24日(金曜日)、ニューヨーク州南部連邦地方裁判所は、Performance Supplyの行為に対する暫定的差し止め命令(Temporary Restraining Order/TRO)を発し、TROを仮差止命令(Preliminary Injunction)に変更するかどうかに関するヒアリングのスケジュールを決定した。
消尽(exhaustion)の問題
3Mが作った流れに追従しようと考える潜在的な原告は、商標所有者が自分の商品の川下での販売を規制しようとする場合に救済が得られることは比較的まれであること 留意すべきである。
特に、原告がその標章を付した商品を商取引の流れに載せることを許可した場合、その商品が転売されている状況に異議を申し立てる仕組みとして商標法を利用しようとするならば、「消尽論(exhaustion doctrine)」ないし「ファースト・セール・ドクトリン(first-sale doctrine)」と向き合わざるを得ない。4
ある裁判所が説明したように:
この法理のもとでは・・・商標保有者は、ブランド商品を商取引の流れの中に放出した後は、もはやブランド商品を管理することができない。 最初の販売の後、商標保有者の管理は使い果たされたと見なされる。 川下の小売業者は、ブランド商品を自由に展示し広告することができる。 中古ディーラーは、商標所有者の販売と競合する再販売のためにブランド商品を広告することができる(中古ディーラーが彼らを認可されたエージェント(authorized agents)だと偽って伝えない限り)。5
したがって、この法理は、例えば、再販業者およびライセンシーを、商標所有者が再販価格が低すぎるまたは高すぎると考える価格で商品を販売することに伴う責任から保護している。
これはまた、商標所有者が単純に「被告による私の商品の再販売を認めない」と述べることを妨げるものである。それでもなお、商標所有者は、慎重に主張し、自らの商標を保護するための訴訟での立証段階においてこれら法理の例外であることを立証するための証拠・証言を準備することができれば、これら法理のいくつかの認められた例外を利用することが可能となる。
第1に、被告が、消費者に再包装(repackaging)したことを十分に開示することなく、原告商品を再包装した場合には、例外が存在する。
従って、例えば、Enesco Corp. v. Price/Costco6事案においては第9巡回区控訴裁判所は、被告が商品の再包装を十分に開示していなかったとの原告の訴状での主張に注目した上で、訴状で十分な訴因を述べなかったことを理由とする訴状却下の申し立て(motion to dismiss for failure to state a claim)を認めなかった。7
2番目の例外は、転用された商品(diverted goods)が正規品と大きく異なる(materially different)場合に適用される。8
これは、通常、物理的差異9が存在することを必要とするが、再販品に品質保証(warranty protection)が欠如していることも大きく異なる(materially different)場合となり得る。10
同様に、品質管理用に商品を追跡するために用いられる製品コードを除去する行為は、その真正品の再販を訴追可能なものとする場合がある。11
主張される相違(difference)が何であれ、重要性(materiality)の基準は低い。12
第3の例外は、原告の正規の流通経路から原告製品を転用することにより、原告の品質管理手続の対象とならなくなった場合に適用される。
この例外のもとで:
「品質管理(quality control)」とは、商標所有者が単に主張にすれば良いだけのお守りではない。 むしろ、商標所有者によって確立された品質管理手順が、製品のスポンサーシップに関する消費者の混同を生み商標所有者の信用を毀損するような製品間の違いにつながるかどうか、が判断基準となる。13
したがって、この理論に基づいて商標権侵害を主張するためには、商標所有者は、「(i)合法的(legitimate)、実質的(substantial)、非名目的(nonpretextual)な品質管理手順を確立しており、(ii)これらの手順を遵守しており、かつ、(iii)不適合な販売が商標の価値を減少させる」ことを立証しなければならない。14
この例外が適用されるための品質管理手順は、「可能な限り最も厳しい手順」である必要はないが15、それにもかかわらず、それらの存在は適切に主張され、最終的に立証されなければならない。
4番目に認められた例外は、再販売された商品が、あまりにも根本的に正規品と異なるため、正規品かどうかについての潜在的な混乱をいかなる量の情報公開でも是正することができない場合に適用される。16
この例外は、例えば、かつて真正であった商品が、商標の所有者に由来するものとして表示されることが不公正であるほどに改修されている場合に適用することができる。17
最後に、再販プロセスにおいて被告が独立した欺瞞的行為を行った場合、第5の例外が成立する。
ある裁判所が説明したように:
ファースト・セール・ドクトリン(first-sale doctrine)は、単に再販するだけでなく混同を引き起こすような使用の場合には適用されない。単なる再販売を超える行為は、法的責任を引き起こす可能性がある。 例えば、再販業者が正規の取り扱い業者であるか否かについて混同を引き起こすよう計画されたあるいは可能性が高い、積極的あるいは意図的な欺瞞行為、虚偽の示唆、または不実表示、などが該当する。18
このように、「ファースト・セール・ドクトリン(first-sale doctrine)は、原告の商標を使用する再販業者が、実際にはそうでないにもかかわらず、優遇された(favored)または正規の(authorized)販売業者であるという印象を与えることを保護するものではない。」19
結論
新型コロナウイルスの流行拡大に伴う自社商品の価格値上がりを阻止するために商標法を使用しようとする原告は、消尽論(exhaustion doctrine)という深刻な障害に直面する。
その法理に従えば、ブランド品が再販売される状況に対する不服は、それ自体では法的責任の認定の根拠とはならない。
それにもかかわらず、この法理には例外が存在し、差止命令による救済、場合によっては金銭的な救済の基礎を形成することができる。
したがって、3Mの権利行使に続くことを希望する商標所有者は、その主張が1つ以上の例外に該当するようにその主張をどのように表現するかについて慎重な考慮を払うべきである。
さもなければ、申し立て段階(pleading stage)であろうと、略式判決であろうと、その事件の終結につながる可能性がある。
脚注
1 3M Co. v. Performance Supply, LLC, No. 1:20-cv-02949-LAP (S.D.N.Y. Apr. 10, 2020)。3Mは、ニューヨーク州南部連邦地裁での訴訟に続き、カリフォルニア州、フロリダ州、テキサス州で実質的に同じ訴訟を起こした。
2 Id.
3 Id.
4 「ブランド商品に変更を加えずに再販売する販売業者は「侵害者」ではなく、したがって「ライセンス」を必要としないことが原則である」J. Thomas McCarthy, 4 McCarthy on Trademarks and Unfair Competition § 25:41 (5th ed.)(“McCarthy”)。消尽論(exhaustion doctrine)は、当該商品が、当該商品に示される商標の所有者の権限の下で商取引の流れの中に放出された場合でなければ適用されない。例えば、By Design PLC v. Ben Elias Indus., 49 U.S.P.Q.2d 1789, 1791-93 (S.D.N.Y. 1998)(原告が表面に商標が示されているが問題の被告商品を拒絶した場合において、消尽論の適用可能性を否定した)。
5 Osawa & Co. v. B & H Photo, 589 F. Supp. 1163, 1173-74 (S.D.N.Y. 1984)(引用省略)。
6 146 F.3d 1083 (9th Cir. 1998).
7 Id. at 1085-86
8 「よって、ファースト・セール・ルール(first sale rule)は、商品が実質的に異なるように変更された場合には適用されない。」McCarthy、上記脚注4、§25:41。
9 例えば、Societe des Produits Nestle, S.A. v. Casa Helvetia, Inc., 982 F.2d 633, 635 (1st Cir. 1992)(再販されたミントのカロリー含量が異なっていた事案)
10 例えば、Beltronics USA, Inc. v. Midwest Inventory Distrib LLC, 562 F.3d 1067, 1074-76 (10th Cir. 2009) (改変された商品につき保証が無いことを開示しなかったことに基づき法的責任を認定した事案)
11 例えば、Zino Davidoff SA v. CVS Corp., 571 F.3d 238, 246 (2d Cir. 2009)
12 例えば、Id.(「低い」基準を参照している事案)
13 Iberia Foods Corp. v. Romeo, 150 F.3d 298, 306(引用は省略)。
14 Warner-Lambert Co. v. Northside Dev. Corp., 86 F.3d 3, 6 (2d Cir. 1996).
15 Mary Kay, Inc. v. Weber, 661 F. Supp. 2d 632, 643 (N.D. Tex. 2009).
16 例えば、Metropcs Wireless, Inc. v. Virgin Mobile USA, L., P. No. 3:08-CV-1658-D, 2009 WL 3075205, *4 (N.D. Tex. Sept. 25, 2009) (「少なくとも修理済みまたは改変した商品の販売においては、大規模な修理または改変を経て商品が根本的に別の商品であるため商標をそのままとすることが欺瞞的である場合、その元の商標は修理済みまたは改変済み商品から除去されなければならない」)
17 例えば、Cartier v. Aaron Faber, Inc., 396 F. Supp. 2d 356, 360 (S.D.N.Y. 2005)(「被告による原告の時計への変更が、オリジナルの製品のデザインを著しく変更し時計の中核的な機能を損なうほど広範囲に及ぶ」こと基づいて偽造の認定に及んだ事案)
18 Caterpillar Inc. v. Telescan Techs., L.L.C., No. CIV. A. 00-1111, 2002 WL 1301304, *5 (C.D. Ill. Feb. 13, 2002) 及び Enesco Corp. v. K’s Merch. Mart Inc., 56 U.S.P.Q.2d 1583, 1593 (N.D. Ill. 2000)(ファースト・セール・ドクトリン(first sale doctrine)は、商標の使用が「商標が付された商品の保護されるべき再販およびそれに伴う宣伝に附随する場合」にのみ再販業者を商標権侵害の責任から保護し、「単なる再販を超えた混同を生じさせる」使用にまでは及ばないとの理由に基づき、被告の略式判決の申立を否定した事案)
19 Australian Gold, Inc. v. Hatfield, 436 F.3d 1228, 1241 (10th Cir. 2006).
Related People
Theodore H. Davis Jr.
Partner
Atlanta, GA
t 404.815.6534
tdavis@kilpatricktownsend.com
Jennifer Fairbairn Deal
Partner
Atlanta, GA
t 404.745.2536
jdeal@kilpatricktownsend.com
Allison Berman
Associate
Atlanta, GA
t 404.815.6208
aberman@kilpatricktownsend.com