Alerts 故意侵害(willful infringement)を避けるための弁護士鑑定はいつ入手すべきか:知財担当者へのガイドライン

2020年05月13日

Paul C. Haughey and Edward J. Mayle (和訳:穐場 仁)

最近のいくつかの判決は、裁判所がHalo最高裁判決の基準に基づいて「悪質(egregious)」な行為を認定する状況、損害賠償が増額される(enhanced damages)リスクや故意侵害のリスクを軽減するために弁護士鑑定を得るべきである状況を示唆している。

文献からコピーした後IPRを提起した事例

2020年4月8日、カリフォルニア州中央地区のGutierrez判事は、増額された損害賠償額(enhanced damages)として陪審員が約7億8000万ドルの評決を下した後、このうち約3億9000万ドルを損害賠償として認める判決を下した。 Juno Therapeutics, Inc. et al. v. Kite Pharma, Inc., Case No. 2:17-cv-07639-PSG-KSx(C.D. Cal.). 裁判所は損害賠償増額(enhanced damages)の理由を提示しなかったが、訴状において原告は次の主張を行っていた。(1) Kite(被告)の共同研究者が特許の発明者によって発表された論文を引用して特許にカバーされる形態を記載した論文を発表していた;(2) Kiteの共同研究者の1人は、特許の発明者の「先駆的」な業績を認め、そのような業績はその分野における「現在世界中で行われている…すべての研究の事実上の基礎を形成した」とのスピーチを行っていた;(3) Kiteの共同研究者は、発明者の刊行物から特定のDNA構築物をコピーし、Kiteは訴訟対象クレームに記載されたシーケンスによってエンコードされたアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を連邦委員会に提出した資料に記載していた; (4) 訴訟の約2年前に、Kiteは訴訟対象特許のクレームの取消を求めるIPR(当事者系レビュー)を提起したが、PTAB(特許審判部)は最終的に当該クレームの特許性を支持していた。

自分の特許に対する故意侵害が問題となった事例

2020年3月13日、テキサス州西部地区のAlbright判事は、ベンチトライアル(裁判官による公判)の中で、Diamondbackの侵害が故意かつ悪質的(egregious)であったことを認めた後、Repeat Precisionの逸失利益(lost profit)を倍増させ損害賠償額とした。Diamondback Indus., Inc. vs. Repeat Precision, LLC et al., Case No. 6:19-cv-00034-ADA (W.D. Tex.). 裁判所はDiamondbackがDiamondback自身の特許に基づき、Repeat Precisionに使い捨て設定ツール(disposable setting tools)を販売するための独占的ライセンスを与えていたと認定した。Diamondbackは、自身の特許を実施する権利をライセンス契約で制限しており、その後使い捨て設定ツールの販売を可能にするための再交渉を行ったが失敗していた。さらに、裁判所はDiamondbackがRepeat Precisionの顧客に、Repeat Precisionが特許の対象であるツールの販売を許可されていないといった虚偽の表明をしていたと認定した。さらに、Diamondbackは、Repeat Precisionがその侵害をDiamondbackに通知した後、Repeat Precisionを「シャットダウン」するように仕向けた様々な「いじめ」行動を取っていた。

ライセンス申し入れを拒絶した後、製品をコピーした事例

2020年2月13日、テキサス州東部地区のGilstrap判事は、陪審員の評決額の上限は約1億150万ドル(評決額4億ドルではなく)であることを認め、故意侵害の場合にはその額が倍増され約2億300万ドルとなるとし、損害賠償額の上限を限定したうえで新たな公判を命じた。 Kaist IP US LLC v. Samsung Electronics Co., Ltd. et al., Civil Action No. 2:16-cv-01314-JRG(E.D. Tex.). 本事案におけるKaistの主張は、Samsungが特許のライセンスを受ける機会を提供されたにもかかわらずこれを拒絶し、特許発明者による技術プレゼンテーションをSamsungのエンジニアに与え発明をコピーしたというものであった。

ライセンス交渉に失敗し、弁護士に正確な情報も与えなかった事例

2020年1月29日、イリノイ州北部地区のPallmeyer判事は、200万ドルの損害賠償の評決額を3倍にした。 Sunoco Partnership Marketing & Terminals L.P.. v. U.S. Venture Inc., et al., Civil Action No. 15 C 8178(N.D. Ill..). 同裁判所は、Ventureが原告の自動ブタン混合システムを「実質的にコピーした」と認定した。Ventureは、特許権者の従業員から特許権者が多数の特許を有していることを知らされるとともに、その後、特許権者の従業員から「機密情報」と表示されたスライドを提示されていた。その後、Ventureは特許権者の特許を調査し、特許権者とブタン混合技術に関し契約しようとしたが、「両当事者間の交渉は決裂した。」 Ventureとその共同被告は、2年間を費やした代替技術の開発に失敗した後、特許を侵害するシステムを「わずか2週間で」設計し、その設計は特許の内容と「非常に似ていた」。裁判所はVentureが弁護士から非侵害鑑定を入手したことは認めたが、その鑑定は「Ventureが特許を侵害していないという善意の信念を持っていたことを示すものではない」と判断した。裁判所は、Ventureが弁護士に情報をきちんと開示しなかったため、非侵害を示す鑑定には対象製品が正確に記載されていないとして以下のように判示した:「Ventureは、詳細で正確な情報を[弁護士]に提供しなかった、あるいはVentureがそのシステムを設計するに際し鑑定に誠実に依拠して合理的な侵害の根拠をなくすよう鑑定書を正確に検討することを怠った。」

貴社に対して上記したものと同様の主張が行われる可能性があり、陪審員によって信じられる可能性がある場合には、それが真実であるか否かにかかわらず、故意侵害の危険性を軽減するために弁護士の鑑定を取得することを検討すべきである。 鑑定は非侵害又は特許無効のいずれでも良い。

弁護士の鑑定はどのような場合でも必要というものではないが、鑑定を検討する際の重要な要素は貴社が特許の通知(notice)を受けているかである。そのような通知(notice)は、例えば、特許権者からのレター(notice letter)であったり、または、ライセンス交渉を通じて行われたりする (Diamondback v. Repeat Precision and Kast v. Samsung事件のように)。また、コピーした証拠あるいは主張と相まって、特許権者の製品に特許が表示されているか、実際に特許を認識していた場合 (Juno vs. Kite事件のように)、または従業員が独自に特許を発見し侵害の可能性があると考えていた場合にも該当する。また、場合によっては、被告が侵害の危険性を自ら「故意に無視(willfully blinded)」したときに故意が認定されることもある。